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東京高等裁判所 昭和58年(く)305号 決定

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の趣意は、申立人ら作成の即時抗告の申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、頭書被告事件の審理担当の東京地方裁判所で開かれた昭和五八年一一月二日の第一回公判期日において、申立人らは、右裁判所を構成する裁判官田尾勇、同中山隆夫、同田中仁美を忌避する申立をしたところ、右裁判所は、これが刑訴法二四条一項前段にあたるとして右申立を簡易却下したが、右裁判官三名は、共犯者とされる太田早苗と被告人との弁論併合を求める弁護人らの請求を却下し、基本的に事実を争わない立場に立つ同女に対する審理を敢えて進めて検察官請求の証拠をすべて取り調べており、従つて本件被告事件について予断を抱き、不公平な裁判をする虞があるのみならず、本件忌避の申立が訴訟遅延のみを目的としていることが明らかであるとは到底いえないから、原決定には同法二四条一項前段の要件がないのにこれを適用して簡易却下した違法があり、したがつて、原決定を取り消し、本件を東京地方裁判所に差し戻す裁判を求める、というのである。

関係記録によれば、本件で忌避を申し立てられた裁判官三名で構成する東京地方裁判所は、被告人に対する公訴事実のうち寿荘事件について共犯者として起訴されている太田早苗と被告人との弁論の併合を求める弁護人の請求を却下し、同女について審理を進め、被告人に対する昭和五八年一一月一一日の第一回公判期日前に、既に二回の公判を経て検察官請求の証拠を弁護人の同意のうえすべて取り調べたこと、また被告人に対する右第一回公判期日において、同裁判所は、右太田の審理に関与したことを主たる理由に右裁判所を構成する前記裁判官らが本件について不公平な裁判をする虞があるとして申立人らから出された忌避の申立を同法二四条一項前段にあたるとしてこれを簡易却下したことが明らかである。

しかし、共犯者の審理に関与したことが、その一事だけで裁判官の忌避申立理由となり得ないことは既に確定した判例であり(最高裁判所第三小法廷昭和二八年一〇月六日判決・刑集七巻一〇号一八八八頁、同第三小法廷昭和三一年九月一八日決定・刑集一〇巻九号一三四七頁、同第一小法廷昭和三六年六月一四日決定・刑集一五巻六号九七四頁参照)、しかも、所論指摘のような共犯者との弁論併合請求を却下したことに関する事実も、訴訟手続内の審理方法に関するものであつて、右忌避理由不存在の判断に何らかの影響を及ぼす特段の事情とはいい得ないこと明白であつて(最高裁判所第一小法廷昭和四八年一〇月八日決定・刑集二七巻九号一四一五頁参照)、その他原裁判官らが不公平な裁判をする虞があると窺わせる事情は何ら認められない。結局本件忌避の申立は裁判所の訴訟指揮権の行使に対する不服を理由とするものにほかならず、その理由なきこと明白であり、それによつてもたらされるものは訴訟の遅延以外になく、右申立は明らかに訴訟を遅延させる目的のみでなされたものと認めざるを得ない。

したがつて、同条一項前段の要件があるとして、本件忌避の申立を直ちに却下した原決定には何ら違法はない。論旨は理由がない。

そこで、同法四二六条一項後段により本件即時抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(佐々木史朗 竹田央 中西武夫)

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